研究概要
 近年,土砂流出による環境問題(例えば,沖縄県における赤土流出による珊瑚の死滅などの海洋被害),地震時における埋戻し土の液状化による下水道施設の被害や堤防の崩壊,災害現場で発生する軟弱泥土処理など地盤に関する様々な問題が顕在化してきています.本研究室では,これらの問題解決を目指し,環境保全型地盤・リサイクル工学の新たな展開に関する研究を実施しております.

【最近の研究テーマ】
●木材チップ入り繊維質処理土の降雨耐久性に関する研究
●繊維質固化処理土工法への稲わらの適用に関する研究
●赤土流出による海洋被害軽減のための環境保全型赤土改質技術
●生石灰攪拌混合による揮発性有機化合物汚染土壌の最適浄化システム
●土質改良機による汚染土壌修復のDEMシミュレーション
●繊維質固化処理土工法を利用した遊休ため池の再生
●災害現場で発生する泥土処理への繊維質固化処理土工法の適用

木材チップ入り繊維質処理土の降雨耐久性に関する研究

繊維質処理土工法は脱水工程を必要とせずに高含水比泥土を良質な土砂に再資源化する工法であるため,換言すると,生成される土砂は大量の水分を保持することが可能であると言えます.従って,セメント系固化材を含有しない建設汚泥,すなわち非自硬性汚泥や浄水発生土などに本工法を適用した場合,極めて大きな保水力を有する土砂(繊維質処理土)を生成できる可能性があります.本研究室では,浄水発生土に本工法を適用し,植生土壌を生成し,保水力,軽量性,保肥力などを計測した結果,新たに生成された植生土壌は保水力,軽量性,保肥力に優れることを既に確認しております.さらに木材チップを繊維質処理土に混合した場合,その骨格構造から十分な保水力を有しつつ,植物の生育に必要な通気性も確保できることも確認しております.
ところで,多雨地域での緑化工事に繊維質処理土を用いる場合,繊維質処理土の降雨に対する耐侵食性について十分に検討しておく必要がありますが,降雨に対する耐侵食性についてはまだ明らかになっていないのが現状です.そこで,本研究では,降雨による流出土砂量を定量評価し,木材チップ入り繊維質処理土の降雨に対する耐侵食性について実験的に検討しています.実験の結果,木材チップ無しの場合は,1時間に100mmという激しい降雨に5時間晒すと表面が大きく侵食され,土砂流出量も大きくなりますが,木材チップ入り繊維質処理土の場合,表面の土粒子が侵食されても内部から木材チップが現れ,表面を覆うようになり,それ以上の大きな侵食が抑制され,その結果,土砂流失量も小さくなることが確かめられました.このような特徴を活かして法面緑化・環境保全などに取り組んで行きたいと考えております.


作成したチップ入り繊維質処理土

5時間経過後(500mm)の繊維質処理土(木材チップ無し)の表面の様子

人工降雨装置に用いたスプレー

5時間経過後(500mm)の繊維質処理土(木材チップ入り)の表面の様子
ページの先頭に戻る
研究内容に戻る
繊維質固化処理土工法への稲わらの適用に関する研究

  繊維質固化処理土工法により生成される土砂(繊維質固化処理土)は,高い破壊強度・破壊ひずみを有し,かつ乾湿繰り返しに対する耐久性が高いなど優れた地盤工学的特徴を有しているため道路などの盛土材として再利用されおり,これまでに6 00件,67万トンを越える実績があります.その結果,産官学連携推進功労者表彰「国土大臣賞」をはじめ複数の賞を受賞するなど,学術的・社会的に高い評価を受けています.
  本研究室では,繊維質固化処理土の新たな展開として,激しい降雨による土砂流出被害が多発している東南アジア地域に繊維質固化処理土を適用し,土砂流出防止の観点から環境保全に貢献したいと考えています.しかし,近年,古紙の価格は高騰しており,東南アジア地域において大量の古紙を収集するのは容易なことではありません.
  そこで,建設廃棄物である「建設汚泥」あるいは産業廃棄物である「浄水発生土」と農業廃棄物である「稲わら」の両方を複合利用することにより,近年多発しているゲリラ豪雨のような極めて激しい降雨にも侵食されない耐侵食性の地盤材料を安価に生成すること,およびこの耐侵食性地盤材料を用いて,河岸崩壊が頻発し,家屋などに多大の被害が発生しているベトナム河川流域の河岸環境修復に貢献することを目的とした新たな研究に取り組んでいます.


稲わら(写真はひとめぼれ

一軸圧縮試験後の供試体の破断面(稲わらの繊維と土砂が絡み合っている様子が分かる)

ミキサーを用いて粉砕した稲わら
(長い繊維状になっている)
ページの先頭に戻る
研究内容に戻る


赤土流出による海洋被害軽減のための環境保全型赤土改質技術
1   1   1
arrow乾湿繰り返し試験における供試体の状況(左:繊維質固化処理土,右:固化処理土):固化処理土は3サイクル終了時点で既に大きく崩壊したが,繊維質固化処理土は10サイクル終了後も原型を留めており,乾湿繰り返しに対して高い耐久性を有することが確認されました.従って,赤土改質に繊維質固化処理土工法を適用すれば,ガリ侵食を受けず,強い降雨に抵抗できるようになると考えられます.

 沖縄諸島のほぼ全土を占める赤土は粘土質で,水分を含むと付着性が強くなるが,この赤土が沖縄県特有の強い降雨により川から海へ流出し,海洋の珊瑚を覆い,珊瑚を死滅させるなど大きな海洋被害をもたらしています.赤土流出の主なメカニズムは,乾湿により農地・法面などの裸地表面にひび割れが生じ,このひび割れに沿ってガリが発生し,降雨時に地面のガリ侵食により赤土が河川へ流れ込むと言われていますが,本研究室で既に開発した「繊維質固化処理土工法」を赤土改質に適用できれば,乾湿繰り返しに対する高い耐久性を有し,ガリ侵食を受けない強い土砂に改質できると考えらます.しかも本工法であれば沈砂池を設置するとかブルーシートで裸地を覆う工法と異なり,周辺の景観・環境を乱すことなく環境保全型の修復施工が可能になります.そこで,本研究室では,繊維質固化処理土工法を赤土改質に適用し,最適初期含水比,改質土の強度特性・耐久性,土砂流出量などについて実験的に検討しています.研究の結果,自然含水比の状態にある赤土に加水調整して含水比を60〜80%程度まで高め,通常の繊維質固化処理土工法で使用する古紙の2倍の量を添加すると,強度・耐久性ともに優れた土砂に改質できることが確かめられました.平成19年度からは,科学研究費補助金を基に,現地での適用実験を予定しております.

4   4
arrow左から通常の赤土,固化処理土,繊維質固化処理土:繊維質固化処理土はほとんど土砂流出が無いことが分かる.
生石灰攪拌混合による揮発性有機化合物汚染土壌の最適浄化システム
7
arrow小型土質改良機モデルによる生石灰と土砂の攪拌混合の様子

ページの先頭に戻る
研究内容に戻る
   揮発性有機化合物汚染土壌の浄化方法の1つにホットソイル工法があります.ホットソイル工法については,これまでに様々な研究が行われてきました.これらは主に生石灰の水和反応という化学的な側面からの研究であり,これまでの研究によりVOCなどの汚染物質を十分に除去可能であることおよびそれに必要な生石灰の混合量などが明らかにされてきています. しかし,一連の施工プロセス全体が最適化され,効率的に運用されているとは言い難いのが現状です.これは,これまでは,実際に作業を行う建設機械の能力など,土や生石灰などの化学的性質以外の条件が,あまり考慮されていなかったためであると考えられます.土質改良機の性能とそれによって生じる処理土の形状的特性と浄化性能の関係を明らかにし,効率的な浄化処理を行うことで汚染土壌浄化技術の発展と普及に貢献することができると思われます. そこで本研究室では,土質改良機によって攪拌・小割された処理土の物理的特性から浄化処理の阻害要因について考察し,土質改良機での作業も含めた一連の作業の最適化を目指した研究を進めています.これまでに,浄化に及ぼす空隙率,土粒子の径,充填高さ,含水比などの影響を明らかにするとともに,浄化率推定のための実験式を導出しています.
 
土質改良機による汚染土壌修復のDEMシミュレーション
 2003年に汚染土壌対策法が施行されたのに伴い,ここ数年,汚染土壌修復工事が急増していますが,原位置で汚染土壌を修復する場合,一般に汚染土壌をパワーショベルなどで掘削し,右図のような自走式土質改良機を用いて汚染土壌と薬剤を攪拌・混合することにより修復工事が行われます.薬剤は汚染の種類によって変わり,土壌が重金属で汚染されている場合は,薬剤として一般に塩化第二鉄などが使用されています.効率的な施工を行うためには,汚染土壌と薬剤の混合挙動を把握し,混合機の最適設計を図り,最適操業条件を把握する必要がありますが,機械要素や土質条件など掘削土砂と薬剤の混合性能に寄与すると考えられるパラメータは非常に多く,それらの影響を全て実験により評価・検討するのはあまりにも非経済的かつ非効率的です.そこで,本研究室では土砂と薬剤の固液混合過程をコンピュータ上で再現できるシミュレータを開発し,土砂と薬剤の混合過程について解析することにより,汚染土壌処理機械の最適設計および最適操業条件の把握に資することを目的とした研究を実施しています.

ページの先頭に戻る
研究内容に戻る
  1
arrow自走式土質改良機の概略
1
arrow汚染土壌と液体薬剤との固液混合シミュレーション結果:黄色粒子が汚染土壌,黄緑粒子が修復された土砂を示す.粒子間に結合力を持たせ,粘性土塊を表現しています.
繊維質固化処理土工法を利用した遊休ため池の再生
2
arrow施工前
5
arrow施工後
   郡山市にある芳賀池は,水質の悪化やヘドロの堆積による悪臭が激しく,周辺住民から苦情の声が上がっていましたが,2004年に郡山市は芳賀池のヘドロを浚渫し,新たに親水公園を整備する工事を行いました.この時に発生した大量のヘドロを繊維質固化処理土工法で処理し,生成された処理土を公園の基礎地盤として全量リサイクルしました.写真は施工前と施工後の芳賀池の様子を示しています.今は悪臭もなく,水がきれいになり,魚が戻ってくるなど顕著な効果が現れています.今後,公園が整備される予定ですが,このような施工はまさに環境対策施工であり,環境地盤・リサイクル工学の最たるものであると考えています. 本研究室では,このように国策でもある循環型社会の構築に少しでも役立つよう「環境地盤・リサイクル工学」の確立を目指し,「建設副産物は廃棄物ではなく,貴重な材料である」という視点で研究を進めています.

ページの先頭に戻る
研究内容に戻る
災害現場で発生する泥土処理への繊維質固化処理土工法の適用
2
arrow連続式回収機械による泥土処理の概念図
5
arrow実験装置の概略:中央部分が回収装置であり内部にスクリューが設置されている.

ページの先頭に戻る
研究内容に戻る
   近年,2004年の新潟県中越地震や2005年の九州・四国地方での水害など,深刻な自然災害が相次いで発生しています.その際,早期の災害復旧の妨げとなっているのが地震により液状化した泥土や地すべり・河道閉塞により発生した大量の軟弱泥土です.軟弱泥土の発生により災害復旧用の車両・重機が現場に進入するための通路が確保できずに,迅速な復旧作業に支障をきたすことが多いのが現状です. ところで,2004年の中越地震では地すべりにより芋川河道閉塞が生じ,大量の軟弱泥土が発生したが,この芋川河道閉塞緊急対策工事において繊維質固化処理土工法が採用され,大量の軟弱泥土が改良処理されました.本施工では,パワーショベルの先端にミキシングバケットを設置し,泥土と古紙破砕物の混合を行う,いわゆるバッチ式処理でしたが,施工の高効率化を考えると,連続式が望ましいのは言うまでもありません.そこで,本研究室では連続式回収処理を実現するための機械として図のようなスクリューコンベアの使用を提案している.軟弱泥土をスクリューコンベアで回収し,後方に搬送する際に,管内で古紙破砕物とセメント系固化材を混合処理することにより泥土を改良し,改良土を直ちに転圧してアクセス道路を建設するという考えである. 実験では,実際に泥土が回収できることを確認するとともに,回収量に及ぼす各種機械要素(回転数,スクリュー径)の影響について明らかにしています.
















(C) Copyright 2003-2007 
EEE Lab. Environmental Studies Tohoku University, Japan.
All Rights Reserved.